御書本文
られん時は何を以つてか資糧として三界の長途を行き、何を以て船筏として生死の曠海を渡りて実報寂光の仏土に至らんやと思ひ、迷へば夢覚れば寤しかじ夢の憂世を捨てて寤の覚りを求めんにはと思惟し、彼の山に籠りて観念の牀の上に妄想顚倒の塵を払ひ偏に仏法を求め給う所に。
帝釈遙に天より見下し給いて思し食さるる様は、魚の子は多けれども魚となるは少なく・菴羅樹の花は多くさけども菓になるは少なし、人も又此くの如し菩提心を発す人は多けれども退せずして実の道に入る者は少し、都て凡夫の菩提心は多く悪縁にたぼらかされ事にふれて移りやすき物なり、鎧を著たる兵者は多けれども戦に恐れをなさざるは少なきが如し、此の人の意を行て試みばやと思いて帝釈・鬼神の形を現じ童子の側に立ち給う、其の時仏世にましまさざれば雪山童子普く大乗経を求むるに聞くことあたはず、時に諸行無常・是生滅法と云う音ほのかに聞ゆ、童子驚き四方を見給うに人もなし但鬼神近付て立ちたり、其の形けはしく・をそろしくて頭のかみは炎の如く口の歯は剣の如く目を瞋らして雪山童子をまほり奉る、此れを見るにも恐れず偏に仏法を聞かん事を喜び怪しむ事なし、譬えば母を離れたるこうしほのかに母の音を聞きつるが如し、此事誰か誦しつるぞ・いまだ残の語あらんとて普ねく尋ね求るに更に人もなければ、若しも此の語は鬼神の説きつるかと疑へどもよも・さもあらじと思ひ彼の身は罪報の鬼神の形なり此の偈は仏の説き給へる語なり、かかる賤き鬼神の口より出づべからずとは思へども、亦殊に人もなければ若し此の語汝が説きつるかと問へば、鬼神答て云う我れに物な云いそ食せずして日数を経ぬれば飢え疲れて正念を覚えず、既にあだごと云いつるならん我うつける意にて云へば知る事もあらじと答ふ、童子の云く我れは此の半偈を聞きつる事半なる月を見るが如く半なる玉を得るに似たり、慥に汝が語なり願くは残れる偈を説き給へとのたまふ、鬼神の云く汝は本より悟あれば聞かずとも恨は有るべからず吾は今飢に責められたれば物を云うべき力なし都て我に向いて物な云いそと云う、童子猶物を食ては説かんやと
タイトル | 聖寿 | 対告衆 | 述作地 |
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松野殿御返事 | 55 | 身延 |
日蓮大聖人御書
検索結果詳細 御書本文
松野殿御返事 1,384ページ
られん時は何を以つてか資糧として三界の長途を行き、何を以て船筏として生死の曠海を渡りて実報寂光の仏土に至らんやと思ひ、迷へば夢覚れば寤しかじ夢の憂世を捨てて寤の覚りを求めんにはと思惟し、彼の山に籠りて観念の牀の上に妄想顚倒の塵を払ひ偏に仏法を求め給う所に。
帝釈遙に天より見下し給いて思し食さるる様は、魚の子は多けれども魚となるは少なく・菴羅樹の花は多くさけども菓になるは少なし、人も又此くの如し菩提心を発す人は多けれども退せずして実の道に入る者は少し、都て凡夫の菩提心は多く悪縁にたぼらかされ事にふれて移りやすき物なり、鎧を著たる兵者は多けれども戦に恐れをなさざるは少なきが如し、此の人の意を行て試みばやと思いて帝釈・鬼神の形を現じ童子の側に立ち給う、其の時仏世にましまさざれば雪山童子普く大乗経を求むるに聞くことあたはず、時に諸行無常・是生滅法と云う音ほのかに聞ゆ、童子驚き四方を見給うに人もなし但鬼神近付て立ちたり、其の形けはしく・をそろしくて頭のかみは炎の如く口の歯は剣の如く目を瞋らして雪山童子をまほり奉る、此れを見るにも恐れず偏に仏法を聞かん事を喜び怪しむ事なし、譬えば母を離れたるこうしほのかに母の音を聞きつるが如し、此事誰か誦しつるぞ・いまだ残の語あらんとて普ねく尋ね求るに更に人もなければ、若しも此の語は鬼神の説きつるかと疑へどもよも・さもあらじと思ひ彼の身は罪報の鬼神の形なり此の偈は仏の説き給へる語なり、かかる賤き鬼神の口より出づべからずとは思へども、亦殊に人もなければ若し此の語汝が説きつるかと問へば、鬼神答て云う我れに物な云いそ食せずして日数を経ぬれば飢え疲れて正念を覚えず、既にあだごと云いつるならん我うつける意にて云へば知る事もあらじと答ふ、童子の云く我れは此の半偈を聞きつる事半なる月を見るが如く半なる玉を得るに似たり、慥に汝が語なり願くは残れる偈を説き給へとのたまふ、鬼神の云く汝は本より悟あれば聞かずとも恨は有るべからず吾は今飢に責められたれば物を云うべき力なし都て我に向いて物な云いそと云う、童子猶物を食ては説かんやと
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